【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「赤葦は京香さんのことを尊敬しているだけです。笑顔だって、私達の前でもけっこう笑いますしねー」
雪絵は何でもないことのように、先ほどの女中達の噂話を否定した。
本来ならば木兎家の人間として、軽はずみに噂を広める女中らを罰しなければいけないのかもしれない。
「さっきの彼女達の話、私は聞かなかったことにするわ」
「いいんですか?」
「うちの家令にやましいことがないのなら、事を荒立てる必要は無いと思う」
事を荒立てれば、赤葦と京香の名誉を傷つけかねない。
すると雪絵は微笑んだ。
「八重様のそういう所、光太ろ・・・いや、今はダンナサマか、そっくりです」
「・・・?」
「旦那様もいざという時はどっしりと構える人ですから。普段は本当に手がかかる人だけど」
親しげに語ることが許されるのも雪絵だからこそだろう。
彼女を始めとした数人の使用人は、今でも友人のように光太郎と接するし、赤葦とはまるで弟のように接する。
そして、光太郎も赤葦もそれを“当然”のように許していた。
「あ、そうそう。八重様、午後のお茶のお時間ですよー。それを言いに来たんだった」
「ふふ、ありがとう。さっきの女中達も着替えを持ってきてくれたようね」
先ほどの噂話を聞かれていたことを知らない女中達が、八重の着替えを手伝い始める。
三人が窓から離れたことを確認し、雪絵は外の方へ目を向けた。
「・・・・・・・・・」
八重の所へ戻っていく京香の後ろ姿を見つめる赤葦。
その瞳は、誰がどう見てもただならぬものだ。
「・・・気を付けなさいよ、バカ葦」
やっと音になる程度の小さな声で独りごちる。
「庇う方の身にもなってよね」
火のない所に煙は立たぬ。
目に見えない小さな火を全て消して回るのは不可能だ。
雪絵は小さく深呼吸をすると、小豆色のワンピースに着替えている八重がこれ以上余計なことを知ることはありませんようにと静かに願っていた。