【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
夜会に行く事が決まった途端、木兎邸は八重のドレスを用意するため一気に慌ただしくなった。
仕立て職人が招かれ、身体のありとあらゆる部位を採寸されたかと思えば、今度は靴職人が招かれ、木型を作るために足の型取りをされたりと、座る暇もなく身体中をこねくり回される。
「ドレスに使うレースについてですが・・・」
「帽子の羽飾りは・・・」
「靴の色はいかがいたしましょう・・・」
ひっきりなしにやってくる質問の嵐に、八重は辟易していた。
英国で社交界デビューした頃は、両親が少しずつ来る日に備えてくれていたから、こんなに一度に用意しなければならないといったことはなかった。
「日美子様がご存命であれば、ドレスをお借りすることができたのに・・・」
八重が愚痴るのも無理はない。
でも夜会に行くこと自体は楽しみだった。
日本における、欧化主義の拠点。
煌びやかな上流婦人達の洋装、重厚な音で奏でられる円舞曲、恋と政治が渦を巻く夜会にはどうしたって心踊らされる。
採寸の合間、一休みしようと八重がソファーに腰かけると、女中達の話し声が聞こえてきた。
「ほら見て、あそこ。赤葦様よ」
「やはり絵になる御二人ね」
八重は採寸のために用意された衝立の中にいるため、女中達は自分達の会話が主人に聞かれていることに気が付いていない。
キャッキャッと楽しそうな会話の中に赤葦の名前が出てきたので、八重も何気なく窓の向こうに目をやった。
すると、外の植え込みの所で赤葦と京香が話し込んでいる姿が見える。
「赤葦様は京香様とお話になる時だけ笑顔よね」
「ほら、低木で京香様が怪我しないよう、さりげなく支えているわ」
見れば確かに京香と話している赤葦は微笑んでいた。
珍しい・・・というより、初めて見るのではないか?
いつも冷淡な顔をしている赤葦が、あのように柔らかい表情をしているのは。
さすが、姉弟の絆───