【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
心の奥に芽生えた違和感。
しかし、朝食の席で光太郎の笑顔を見た瞬間、それはすぐに掻き消された。
「夜会に同伴してもらいたいんだけど、いいかな?」
突然の光太郎の申し出に、水が入った江戸切子のグラスに伸ばしかけていた八重の手がピタリと止まる。
「夜会ですか?」
「近く、大隈重信侯の奥方が主催される夜会がある。俺がエスコートするから一緒に来て欲しい」
「私なんかが参加しても良いのでしょうか・・・」
八重はチラリと赤葦を見た。
まだ彼に認められていないのに、光太郎と並んで社交の場に出てもいいものだろうか。
しかし、赤葦は涼しい顔でハムエッグを口に運んでいるので、おそらく光太郎と彼の間では了承済みなのだろう。
「海外からの来賓も多いらしいから、通訳もやってくれれば喜ばれると思う!」
「と言いますか、御自分が通訳を必要とされていらっしゃるのですよね、旦那様は」
「ぐっ・・・あかあし・・・どうしてお前は痛いところを突いてくるんだよ!」
大隈重信といえば、確か外務大臣を務めている人物。
その妻、綾子は婦人達のリーダー的存在で、しばしば夜会や園遊会を開く社交的な人だという。
「いずれにせよ、八重様を皆様にご紹介する良い機会だと考えます」
「な! 赤葦もそう言っていることだし、いいだろ?」
八重はすでに十五の時に英国で社交界デビューを果たしている。
あの時とは勝手が違うだろうが、木兎家の人間として公けの場に出るのは大事なことだ。
「分かりました、私で良ければご一緒させてください」
「やった!! 赤葦、八重にドレスを用意してやってくれ」
「かしこまりました」
嬉しそうに顔を輝かせる光太郎を見ていると、不思議とこちらまで笑顔になってくる。
クスクスと笑っている壁際の使用人達も日常の光景だ。
だが、その中に京香の姿が無いことだけがいつもと違うことだった。