【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
「どうかお許しくださいませ、八重様。私はただの女中で、何も分からないのでございます」
「ああ・・・そうね、ごめんなさい」
彼女は京香の下についている女中の一人でしかない。
主人の噂話をすることは固く禁じられているのだろう。
「・・・そういえば、京香さんは? 今日は姿が見えないようだけど」
「京香様は御気分が優れないとのことで、お休みになられております」
「それは心配だわ。後でお見舞いに行きましょう」
京香ならば何か知っていると思ったのだが・・・
光臣の命令で日美子の遺品が全て処分されていたとしたら、そのことを光太郎に尋ねるべきではないだろう。
息子として語りたくないことかもしれない。
「───日美子様・・・いったいどのような御方だったのかしら」
先代に強く愛されていたということは知っているが、父の貴光が日美子について何か語ったことはあっただろうか。
光臣や光太郎の話をよくしていたのは覚えている。
しかし、すぐに思い出せる範囲では、日美子について特に何も話していなかったように思う。
「あの・・・八重様・・・使用人の中には奥様が亡くなられた事をまだ受け止められずにいる者もいます」
だから、この屋敷ではなるべく日美子の話題を出さない方がいい。
女中は口にこそしなかったが、そう言いたげに苦悶の表情を浮かべていた。
「・・・・・・・・・・・・」
この時から八重は少しずつ目の当たりにするようになる。
木兎家が抱える深い闇。
そして・・・
狂った運命の歯車を。
「分かったわ、貴方を困らせてしまってごめんなさい」
だが今の八重はまだ、そこまで深くは考えていなかった。
自身もすぐにその闇に取り込まれ、狂った歯車に囚われることになるとも知らず・・・