【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
木兎家に来てから数日が経ったある日、八重は奇妙なことに気が付いた。
「ねぇ、日美子様の御仏壇はどこにあるのかしら?」
髪の結い上げを手伝ってくれていた女中に何気なく尋ねると、その女中はギクリとした顔で持っていた櫛を床に落とした。
「お、奥様の御仏壇でしょうか・・・?」
「まだ一度も手を合わせていないし・・・できればお線香をあげたいのだけれど」
一度も会ったことがないが、元は伯母のものだった部屋を使わせてもらっているし、木兎家の人間として手を合わせるのは当然だろう。
木兎邸には立派な仏間があるが、仏壇に日美子の位牌らしきものは見当たらなかった。
別にあるものだと思って質問したのだが、女中は落とした櫛を洗いながら言いにくそうに答えた。
「あの・・・恐れながら、梟谷の御屋敷に奥様の御仏壇はございません」
「え・・・?」
息子の光太郎がいるというのに、仏壇を置かないというのは普通のことなのだろうか。
「では、お写真とかは残っていないの? せめてお顔だけでも拝見したいわ」
「その・・・日美子様のお写真も全て先代が御隠居先に持って行かれてしまったので、御屋敷には一枚も・・・」
「光太郎様もお持ちじゃないの?」
「はい・・・先代からきつく言われておりますため、旦那様もお持ちになられてはいないかと」
そういえば、ずっと違和感を覚えていた。
この屋敷の使用人達は、ほとんど日美子のことを語ろうとしない。
八重が使っている寝室も赤葦が家具や調度品を全て入れ替えたというし、装飾品こそ残されているものの、日美子を偲ばせる遺品の類を一度も目にしたことは無かった。
「日美子様は・・・事故で亡くなられたのよね?」
「・・・・・・・・・・・・」
母の実家にいた頃に受け取った、木兎家からの便りにはそう書いてあった。
いくら突然の死だったとしても、仏壇すら置かないのはおかしい。