【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第4章 白薔薇
爽やかでありながら、甘く優美な香りが充満する部屋。
灯りは窓から差し込む月明りのみ、重い静けさの中で時折り聞こえるのは女の呻き声だった。
───時間の感覚というのは、至極曖昧なものだ。
「・・・あ・・・」
首を絞められて気道が確保できない時の一秒。
愛する人の声に耳を傾けている時の一秒。
どちらの長さも等しいはずなのに、片方は永遠のように感じられ、もう片方は一瞬のように感じられる。
「・・・痛ッ・・・」
ああ、今は一秒が永遠のようだ。
全身から滲み出る汗がその苦しみの強さを物語っている。
「・・・ッ・・・」
視界を塞がれ、自由を奪われた身体。
無骨な男の指先が肌の上を這い、時々柔らかな肌に爪を立てる。
チリチリとした熱のような痛みを覚え、小さく呻き声を上げると今度は優しく撫でてくるのは彼の慈悲か。
太腿の内側には特にその爪痕が多く、その赤黒い斑点がまるで所有印のようだ。
痛い。
暗い。
怖い。
それでも目を塞がれ、四肢の動きを封じられた自分にできることは、覆いかぶさっているこの男の欲望が鎮まるまでジッと耐えることだけ。
悲鳴を上げれば上げるほど、頭を振れば振るほど、身体の奥深くに侵入している男性器は荒ぶり、火箸を突っ込まれたような痛みが股の間に広がることになる。
それを嫌と言うほど知っているから、ただ必死に欲望を受け止めながら恐怖の終わりを待っていた。
ただ、この絶望的な暗闇にも救いはあった。
“京香!! 見ろよ、梅の花が咲いた”
源氏物語とかけて、人は愛情を込めながら彼をこう呼んだ。
“光る若様”と。
ボケを見て梅が咲いたと顔を輝かせていた彼を思い出す。
暗闇だからこそ、鮮明にその姿が瞼の裏に蘇った。
彼の笑顔を想うだけで、いくらでも苦痛に耐えることができる。
「こ・・・たろう・・・さま・・・」
たとえ、咽るような白薔薇の香りの中で延々と男の欲望に晒され続けようとも───