【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第3章 秋霖 ②
“赤葦家は代々、筆頭家老として木兎家をお支えして参りました。それは御維新の後、大名から華族となられた今も変わりません”
赤葦の姉、京香の言葉が脳裏をよぎる。
“京治は赤葦家の長男として、木兎家に全てを捧げるよう父に厳しく育てられました”
学院では友人がいただろうし、学びたい事もまだまだあっただろう。
いくら木兎家の家令となるために育てられたとはいえ、まだ十七歳の赤葦はどんな思いで毎朝学生服姿の光太郎を送り出し、日中は一人で日々の責務と向き合っているのだろうか。
“ようこそ、八重様。私は家令の赤葦京治と申します”
雨の中、髪も洋服も濡らして待っていた赤葦。
冷え切ったその手以上に、冷たい目をしていた。
彼は本当に心から望んで木兎家の家令を務めているのだろうか。
英国に住んでいた頃、貴光の屋敷にも家庭教師を含めた数名の使用人がいた。
それでもこれほどまでに使用人が気にかかったことはない。
“私ども使用人に対して一切のお気遣いは無用です”
しかし、主人との間に厚い氷壁を築いているのは赤葦の方だ。
彼の心の内が八重に分かろうはずもない。
「・・・・・・・・・・・・」
八重が小さく溜息をつくと、同時に馬車が停まった。
昨日とは違い、牛島家から戻ってきた八重を玄関の前で出迎えていたのは4人の使用人。
京香と侍女、従僕、そして───
「おかえりなさいませ、八重様」
家令が礼儀正しく頭を下げて待っていた。