【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第3章 秋霖 ②
牛島家と木兎家は馬車で15分ほどの距離にある。
この界隈は華族の屋敷が並び、八重の母の実家があった横浜とは違って治安が良く、施しを請う乞食の姿も見当たらない。
八重は大屋敷の瓦を見つめながら口を開いた。
「そういえば赤葦は学院に通っていないの? 平民でも通えるのでしょう?」
光太郎と牛島若利が学習院に通うのは当然だが、彼らより一つ年下の赤葦が学生でいてもおかしくはない。
いくら現職の家令とはいえ、それくらいの自由は許されているはずだし、木兎家ならばいくらでも援助できるだろう。
「赤葦様は・・・」
闇路は少しどもったが、八重の質問に答えないわけにはいかなかった。
「もともと旦那様の一学年下で学習院に通っておられました。しかし、旦那様が爵位を継がれたのと同時に自主退学し、家令職に専念されるようになったのです」
「でも・・・彼の父親はまだご健在のはず。どうして家令も代替わりしたの?」
「赤葦様の御父上は先代のお世話をするため、職を退いてご自身もご隠居先の別邸に移られました」
江戸の時代は筆頭家老として木兎家に仕えていた赤葦家。
主君不在の時は代わりに政務を取り仕切っていた忠臣、たとえ世が変わっても君臣の義は変わらぬというのか。
しかし・・・
だからと言って、我が子に全てを投げ出してまで自分も隠居同然の身となるだろうか。
「残された光太郎様と赤葦はさぞ大変だったでしょう・・・」
突然、爵位を継ぐことを強いられた光太郎と同様、赤葦も家令を継ぐことを強いられた。
彼の冷めた瞳はそこから来ているのかもしれない。
「ですからこの闇路は東京に残り、御二人をお支えしたいという我が儘を先代に聞いていただいたのです」
きっと光臣と赤葦の父もそれを願っていたに違いない。
闇路がいれば安心だ、と。
「赤子の頃から知っている旦那様と赤葦様のため・・・不肖ながら御力になりたいと考えております」
いくら赤葦が怜悧な男とはいえ、十七という年齢は家令として若すぎる。
それも長く木兎家に仕える闇路が補佐役に徹しているからこそ、成り立っているのだろう。