【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
朝餉の匂いが食堂から漂い始める頃、木兎邸の寒々しい廊下に乾いた靴音が響く。
「ねーねー、赤葦さまぁ」
間延びした声が、光太郎を呼びに行こうと廊下を歩いていた赤葦を呼び止めた。
振り返るとそこには給仕で忙しいはずの雪絵。
「仕事はどうしたんです?」
「ちょっと話したくて」
家令と女中、本来ならば雪絵は赤葦を敬わなければならない。
しかし、二人の間柄はその限りではないようだ。
「話とは? 忙しいので後にしていただきたいのですが」
雪絵は赤みがかった髪を耳にかけ、「んー?」と曖昧に相槌を打ちながら首を傾げた。
おっとりとしているのはいつものことだが、隙だらけというわけでもない。京香と同様、赤葦が本格的に木兎家の使用人となる前から女中として仕えている先輩だけに、彼女には頭が上がらないところがあった。
「・・・説教ですか?」
「あはは、私が赤葦に? 冗談はやめて、コータローさまに怒られちゃう」
ケラケラと笑っているが、「でもね」と続けて赤葦のピンと伸びた背筋に手を添えた。
「ちゃんと食べてる? あんまり考えすぎているとそのうち倒れちゃうよ」
「食いしん坊の貴方ほどではありませんが、必要な量は食べてます」
「そうかな。そのわりには少し痩せたんじゃない?」
「背が伸びただけでしょう。旦那様と並んでいるとあまり目立ちませんが」
淡々と返す赤葦に怯む雪絵ではない。実際、彼がこの数日で痩せたのは事実であり、その理由は彼女にとって火を見るよりも明らかだったからだ。
「一応さ、余計な心配はしなくていいよって言いたくて。貴方が八重様にしたことは墓場まで持ってくつもりだから」
雪絵は赤葦に詰め寄り、小柄な身体を精一杯のけぞらせながら冴え冴えとした家令の顔を見上げた。
「赤葦は一人じゃないよ」
ここに共犯がいるのだから───