【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
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冬の朝の、透き通るような空気が昔から好きだった。
英国は“一日のうちに四季がある”と言われるほど天気が移ろいやすい国だったが、朝の空気だけは曇天でも澄んでいた。
霜の降りる早朝、静まり返った田園を母と一緒に散歩すれば、古びたガーデンテーブルの上では朝露で喉を潤す小鳥たち。
彼らを喜ばせるためポケットにパン屑をしのばせながら歩く、そんな穏やかな記憶が蘇る。
しかしここは日本で、あの時手を引いてくれた母はもういない。
「・・・寒」
赤葦に犯されてから二晩が明けた。
久しぶりに外の空気を吸いたくなった八重は、まだ暖房すら入ってない時刻に一人、薄っすらと雪がちらつく庭に出た。
牛島家とは違い、洋館である木兎家の庭は英国を思い起こさせるローズガーデン。
棘に触らないよう枝の霜をはらっていると、垣根の向こうから荒々しい息遣いが聞こえてきた。
「ハッ・・・ハッ・・・」
まだ六時前だというのに誰だろう?と顔をのぞかせてみると、灰色の着物を諸肌脱ぎにしながら竹刀を振る光太郎がそこにいた。
夜明けからずっと素振りをしているのか隆々の筋肉は熱を帯び、雪が肌に触れる前に溶けてしまうほど。
その勇ましい姿に見惚れていると、向こうも八重の存在に気が付いたらしく、一瞬にして真剣な顔から満面の笑みへと変わった。
「八重!!」
ああ・・・光太郎のこの笑顔、霜衣の朝に差し込む陽光のようだ。
「もう起きて大丈夫なのか? そんな身なりじゃ寒いだろ、俺の半纏・・・はどこだ? 待ってろ、今持ってきてやる」
「ふふ、羽織を着ているから大丈夫です」
零度を下回っているのだ、上半身裸でいる光太郎の方が寒いだろう。
しかし、素振りの手を止めたというのに光太郎の身体からは汗が滝のように噴き出している。