【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
赤葦が京香の身体を求める時、それは彼が自分の責務や宿命に耐えきれなくなった時が多い。
初めて抱かれたのは日美子が亡くなった後だった。
周囲が驚くほど赤葦は家令として立派に勤め上げていたが、ふとした時に自分を見つめる目が絶望の色に染まっているのに京香は気が付いていた。
そして黒尾に新鉢を割られてから数日後、赤葦は初めて京香に懇願したのだ。
“貴方を抱きたい”
最初は何の冗談かと思った。
だけど弟の瞳にはまるで生気が無く、すでに魂の半分が抜けているようにその着物姿は暗闇の中に消えてしまいそうだった。
赤葦家の長男として、物心つく前から父に厳しく育てられてきた弟。
そのせいだろうか、自分の欲求を滅多に口にすることのない彼の、生まれて初めてと言っていいぐらいの要求は、身体を差し出すことだった。
いつからそのような目で自分を見ていたのかは分からなかったが、不思議と嫌悪感は生まれなかった。
むしろ、彼のことが憐れで仕方がなかった。
“姉さんは何もしなくてもいいです。ただ目を閉じていてください”
その言葉の通り、行為中の彼は京香から一切の光を遮断していた。
“自分を抱いている男の顔を見てしまったら姉さんの精神が壊れてしまう・・・貴方はとても優しい人だから”
それが京香の恐怖を煽っていると知りつつも、目隠しをしている限り、少なくとも二人の視線が合うことはない。
たとえその下で京香の目から涙が零れていようとも、赤葦の目に留まることはない。
赦されざる行為を強いている赤葦と、それを受け入れている京香は互いにその罪から目をそらしていられるのだ。