【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
昨晩、黒尾さんのお相手をして疲れているでしょうが、貴方には受け入れてもらうしかない。
赤葦は京香の身体を抱き上げると、数歩しか離れていないベッドの方に連れて行く。
犯した後の八重を同じように抱き上げた時とは全く違う姉の重みに、凛々しい眉と眉の間には深いシワが刻まれていた。
同じ背格好の女性でも、罪の意識の有無でこんなにも重みが違ってくるものなのか・・・
「京治・・・!」
不思議なことに、京香は赤葦に抱き上げられながら一切の抵抗を見せなかった。
もし意に染まぬことなら両手足をばたつかせれば逃げることもできただろう。
しかし、梟に捕らえられた小動物のごとく京香はただ震え、そして喰われる時を待つことしかできない。
それは何故か?
「姉さん・・・力を抜いてください」
部屋を暖めるストーブのガスの匂いすら掻き消すほど濃い白薔薇の香り、それは木兎家に関わる人間にとって神聖で特別なものだからだ。
赤葦ですら、圧倒されるほどの美しさを称える時はその花を引き合いに出す。
とは言っても、京香が彼の口からその賛辞を聞いたのは、ただ一度だけのことだったが・・・
“思い出していたんです、八重様の御姿を・・・”
かつては木兎日美子を称えた、美しい花。
“───白い薔薇のようでした”
その香りを纏い、光臣に深く愛された美しい貴婦人、そして、光太郎の母。
日美子と同じ香りを京香にも纏わせようとする赤葦の真意は分からなかった。
ただ、彼にとって白薔薇とは特別な花であると同時に、彼の生まれ持った忌々しい運命を象徴するものでもあるはず。
姉を辱める自らの行いを白薔薇の香りの中に霞ませようとする、それはきっと直視することのできない罪を自覚しているからなのであろう。