【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
時計の針が深夜を告げる。
赤葦は手の甲で自身の口を押さえながら京香を睨んでいた。
そうしていなければ、情けない言葉を吐いてしまいそうだったからだ。
想定もしていなかった。
まさか八重が京香を牛島家に連れて行こうとするとは。
自分を凌辱した男の姉だ、普通ならば怒りをぶつけてもいいだろう、不信感を抱いたっていいだろう。
───それなのにあの令嬢はどこまで・・・
「姉さんは酷い人だ」
貴方の八重様に対する忠誠心は認めましょう。
だが、どんな手を使ってでも俺は貴方を木兎家に繋ぎとめる。
「光太郎様と俺にとって貴方がどれほど大きく、大切な存在か、知らないとは言わせません」
「京治・・・」
「それに悲しいですね。やはり貴方は俺のことを信用していない」
“赤葦家の長男として、貴方は光太郎様に最期まで仕えてください”
あの言葉で確信した。
姉さんは、俺に対して父と同様の思いを抱いている。
「俺を畏れているのでしょう。そして、疑っている」
「京治、お願い、それ以上言わないで」
赤葦が何を言わんとしているか、分かったのだろう。
京香は言葉を遮ろうとしたが、物理的にも心理的にもそれを止める手段など無かった。
「赤葦家を“壊した”俺が、今度は木兎家を壊すのではないか、と───」
「違うわ!! 貴方は赤葦家を壊してなどいない!」
いいや、違わない。
俺が赤葦家を壊したのです。
だから、父は現当主の光太郎様ではなく、光臣様についていくことを選んだ。
「本当は俺は木兎家の家令になってはいけない人間だったのかもしれません」
日美子様を死に追いやった。
黒尾さんに姉さんを差し出した。
八重様の政略結婚を企てた。
八重様を・・・この手で犯した。
俺は赤葦家の長男として相応しくない行動をしている。
姉さんの目にもそう映っていたっておかしくはないんだ。