【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
暗い部屋に漂うガスストーブの匂い。
使用人の部屋に置くにしては贅沢すぎる暖房器具だが、京香が寒さで身体を壊さないようにと光太郎が特別に買い与えたものだ。
午後十一時。
使用人のほとんどが床に就いている時刻に、赤葦は京香の部屋を訪れていた。
誘ったのは京香だが、赤葦も話をしたいと思っていた。
それなのに先ほどから姉とは目を合わせず、ストーブの奥で揺れる火の明かりを見つめている。
しびれを切らした京香が口を開きかけたその時だった。
「それで、俺に話とは何でしょうか」
八重とのことがあったというのに取り繕う様子は微塵もなく、どこまでも冷静な赤葦。
しかし、それはすぐに崩れることとなる。
京香は深呼吸を一つしてから意を決した。
「光太郎様にお暇乞いをしようと思っています」
その瞬間、赤葦の視線がガスストーブから離れる。
「暇乞い・・・?」
まさか京香の口から木兎家の使用人を辞めるなどという言葉を聞くとは思っていなかったのだろう。
赤葦の眉間に深いシワが刻まれ、目尻が鋭角に吊り上がる。
「───私は八重様とともに牛島家に参ります」
すでに京香は腹を決めているらしく言葉に迷いは一切無いが、赤葦にとってはまったくの寝耳に水。
ジッと姉を見つめながら、その言葉の真意を探っているように見えた。
冗談ならば許してやらないこともないが、彼はそれをユーモアとして受け止められるほど柔軟でもない。
「・・・自分が何を言っているか、分かっているんですか?」
「戯言や空言でこんなことは言いません」
怒りと動揺を隠すためなのか、赤葦の声がどんどん低く、冷たくなっていった。