【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「八重様が何も仰らずとも、今朝倒れられた原因が京治にあると私は確信しております」
「赤葦から・・・何か聞いているの?」
「いえ、何も。しかし、きっと姉だから分かってしまうんですね、誰かを傷つけた時にあの子がする表情を・・・」
八重が倒れた騒ぎの中で赤葦は悲痛な顔をしていた。
表情の筋肉が僅かに強張るそれに気づける人間は京香以外にはいないだろう。
「京香さん、顔を上げて」
凌辱された怒りと悲しみが消えたわけではない。
しかし、何の罪もない京香にこれ以上頭を下げさせるわけにもいかない。
八重は京香の手を握り返すと、この日初めて微笑んだ。
「私は貴方が大好きなの、京香さん。だから、たとえ赤葦のことでだろうと、貴方に頭を下げられるととても辛い」
光太郎も、京香も、そして赤葦も。
誰もが木兎家のためを思って、誰もが傷つくこと覚悟で自分の信念を貫こうとしているのなら。
「私は牛島家に嫁ぐわ。そして、子供をたくさん産むつもりよ」
そのうちの一人が光太郎の養子となれば、直系の血は確実に受け継がれていくだろう。
「その時は京香さん、貴方も私と一緒に牛島家に来てくれる?」
木兎家が代々、赤葦家を側近に選んできた理由が良く分かる。
八重は京香と一緒にいると何故かとても安心できるのだ。
それはきっと、光太郎が赤葦に対して抱いている感情と同じだろう。
しかしながら、八重の身の廻りの世話をするために牛島家の使用人になることは、牛島家はもちろん光太郎の許可が無くてはならないこと。
それでも真っ直ぐと自分を見つめる八重に、京香も涙をハンカチで拭ってから微笑んだ。
「もちろんでございます、八重様。木兎家の方にお仕えする、それが赤葦家の人間の定めであり、何よりの喜びです」
その言葉に嘘は無かった。
事実、その日の夜に京香はそのことを赤葦に告げる。