【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「・・・京香さん、貴方は私と若利様が結婚することをどう思っているの?」
「八重様・・・」
京香は常に八重の味方になってくれていた。
だけど、木兎家の血筋のことを考えれば、光太郎と結婚する方が正しい選択だと彼女は考えるだろうか。
しかし、その問いかけに対しての京香の言葉は、八重が考えていた返答のどれでも無かった。
「八重様が木兎家のことを優先して下されたご決断ならば、私は八重様の思う通りになされば良いと思っています」
そして・・・、と続けて八重を真っ直ぐと見つめ、微笑む。
「八重様が御自身のことを優先して下されたご決断ならば、私は心から八重様を祝福いたします」
後者ではないことを知っているからこそ、京香の微笑みはまるで泣きそうな顔だった。
ほんの数十年前まで、御家のために姫が犠牲になることは当たり前だった。
だけど今は明治、文明開化の世だ。
牛島家に嫁いだとしても、光太郎の妻となったとしても、八重が心から夫を愛し、夫から愛されなければ本当の意味で幸せになれはしない。
そして何より・・・
「京香さん? 泣いているの・・・?」
これまでどのような思いで八重を本家に迎えたか、そして自ら牛島家に嫁ぐと言われた光太郎の気持ちを考えると胸が張り裂けそうになる。
「もっと女が自由になれる世であったなら、八重様には好いた殿方と結ばれて欲しかった」
そして・・・もし許されるなら・・・
「それは貴方も同じよ、京香さん」
涙を流す京香が今一番誰かに言って欲しかった言葉を口にし、ベッドから微笑む八重。
窓から差し込む夕陽のせいもあるのか、その横顔は息を飲むほど木兎家当主にそっくりで───
「八重様・・・私にはもったいないお言葉です・・・」
密かに想いを寄せる男性の笑顔を思い出しながら、京香は赤葦家の女として生まれた自分の運命と、木兎家の女として生まれた八重の運命を嘆いていた。