【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「八重様、京香でございます。お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
今は誰とも顔を合わせたくなかったが、おそらく部屋の明かりを点けにきたのだろう。
それに、テーブルの上の林檎の経緯も知りたい。
八重は上半身を起こし、手櫛で髪を整えてから入室を許可する返事をした。
「お加減はいかがですか?」
「心配はかけたくないのだけれど、夕餉も食べられそうにありません・・・光太郎さんにお断りを入れておいてください」
「・・・かしこまりました」
京香は気遣うように八重に会釈をしてから、部屋のランプに明かりを灯した。
何か言いたげだが、言葉を選んでいるようにも見えるし、八重から口を開くのを待っているようにも見える。
仕方ない、これ以上京香に気を遣わせるわけにはいかないだろう。
「ねぇ、そこの西洋林檎、どうしたの?」
八重の方から先に口を開くと、京香は少しだけ安心したように口元を綻ばせた。
「牛島若利様からの御見舞いの品にございます」
「若利様が・・・? 私が倒れたことをわざわざ連絡したの?!」
「い、いえ! 実はお昼過ぎに牛島様が見えられて・・・旦那様が応対したのですが、八重様が臥せっていることをお伝えしたところ、すぐに果物屋に届けさせてくださったのです」
腹に障らない口慣れたものが良いだろう、という配慮だったという。
それにしても、昨日の今日で若利自らが木兎家に来るとは思ってもみなかった。
「若利様は正装姿でいらっしゃいました。薄紫色の袴が良くお似合いで、女中達が大騒ぎしていましたよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「それだけ八重様とのご結婚を真剣に考えておられるということです」
だが、京香の言葉に喜べる自分はどこにもいなかった。
木箱に入った西洋林檎は赤く、可憐な少女の頬のよう。
婚約直後に他の男の手によって生娘でなくなった自分を、家柄の良い若利が許すはずもない。
───いったい・・・どう顔向けすれば良いというのか。