【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
ここで家令ならば医者を呼ぶよう使用人に命令しなければならない。
光太郎の代わりに八重を抱き上げ、ベッドに運ばなければならない。
分かっているのに、身体が己の意志に何一つ反応しない。
“貴方はただ、これから起こる事を悪夢だと思っていればいい”
悪夢はまだ、八重の中だけでなく赤葦の中でも続いていた。
「八重様・・・恨むなら木兎貴光様の娘として生まれたことをお恨みください」
八重が倒れた騒ぎから少し離れた場所で、凍てつく空を見上げた赤葦。
紐を辿るように昨晩のことを思い返していく。
八重の涙、黒尾の怒声、京香の覚悟。
どれもが重い枷となって赤葦の四肢に纏わりついているが、それでも自分は立ち止まることが許されない。
“知っているか・・・梟は時に、自分より大きな猛禽類をも餌食とするらしい”
昨晩の黒尾の言葉が蘇る。
ああ、喰ろうてやろう。
木兎家を守るためならば、光太郎様を守るためならば、たとえ猛禽類の頂点に立つ“白鷲”であろうと。
深い呼吸を一つして、再び全ての感情を殺す。
「京香は八重様の御看病を、他の女中は旦那様のお着換えを今すぐ用意しろ」
使用人達に指示をし始めた赤葦は、すでにいつもの家令の顔つきに戻っていた。