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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第7章 冬の蝶





光太郎は天真爛漫な男だが、時折り驚くほどの執着を見せることがある。
その代表的な例が剣道だ。

兎にも角にも負けず嫌いなのだろう、自分が納得いくまでは手の平に出来た肉刺が破裂しても竹刀を振り続けていることさえある。

そして最近は、八重のことになると感情的になることが多々あった。

「八重に何かあったらすぐに報告しろっていつも言っているだろ!」

牛島との婚約の件もあるから神経質になっているのかもしれないが、赤葦の返答を待たずに声を荒げることは光太郎にとって珍しいことだった。


「八重? 大丈夫か、何かあったんなら俺に話してくれ」


光太郎が心配そうな顔をしていることがかえって、八重に昨夜の一件を話しにくくしているのかもしれない。
赤葦は紅茶を飲みながら様々なことを想定していた。

八重の口から昨夜の一件が明るみになった場合、十中八九、光太郎は激怒するだろう。
しかし、その怒りの矛先が赤葦に向けられるのは六割といったところ。
残りの四割は屋敷に居なかった自分を責めるだろう。
ああ、できればそれは避けたい。

よしんば怒りを全て赤葦に向けたとして。
家令職を解くだろうか? いや、それはない。

他に考えるべきは、八重を凌辱した赤葦は今後、この家でどのような行動を取るべきか。
まず、この件は絶対に外部に知られてはならない。
このようなスキャンダルは新聞社の恰好のネタだ、光太郎にどう口止めをする?

「・・・・・・・・・・・・」

揺らしたティーカップの中に生まれた渦のように、思考は螺旋を描くだけで答えが見つからない。
それだけあの行為は赤葦にとって衝動的なもので、こんなことは生まれて初めてのことだった。

しかし次の瞬間、赤葦にとって想定外のことが起きた。

木兎家令嬢は赤葦の想定を優に超える、芯の強い女性なのかもしれない。


「本当に・・・何でもありません」


きっと光太郎に心配をかけたくなかったのだろう。
今にも崩れ落ちそうな身体と心で、八重はあの悪夢を全て自分の中に留めたのだった。









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