【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「八重、おはよう!!」
十数時間ぶりに顔を合わせる八重。
赤葦はすぐにその顔を見ることができなかった。
冷めかけたスクランブルエッグに視線を落としながら、彼女の第一声を待つ。
光太郎に泣きつくだろうか。
自分を罵倒するだろうか。
あれだけのことをされたのだ、彼女にはその権利がある。
しかしそのどちらでもなく、八重は消え入りそうな声で光太郎に返事をしただけで、食堂の入口で立ち止まったまま。
その姿は赤葦を少なからず驚かせた。
「八重に紅茶を持ってきてやって」
何も気づいていない光太郎は、八重の好きな紅茶を持ってくるよう女中に言いながら朝の太陽と変わらないほどキラキラとした笑顔を見せている。
あと何秒、この笑顔を保つことができるだろうか。
そんなことをボンヤリと考え、いつその時が来てもいいよう小さく呼吸を整えてから赤葦も初めて扉の方に目を向けた。
「おはようございます、八重様」
さぁ、今こそ貴方は光太郎様に泣きつきますか。
それとも私を罵倒しますか。
「御気分はいかがでしょうか」
「赤・・・葦・・・・・・」
そもそも、よくこのダイニングルームに降りてこようなどと思えたものだ。
光太郎が食事をしているということは、そこに家令の姿がないわけがないというのに。
言葉には決してしないが・・・
否、言葉には絶対にできないが。
なんと、心が強い方なのだろうか。
赤葦の冷たい視線と、八重の弱々しい視線が交わる。
「え、気分? 八重、あれから体調を崩したのか?」
光太郎はその時、初めて八重の異変に気が付いたようだった。
朝の低血圧とは思えないほど顔色が悪く、良く見れば身体も小刻みに震えている。
やはり、赤葦を目の前にして平静を保つことなど到底無理なようだった。