【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
案の定、それから一刻ほどして起きてきた光太郎の第一声は、「腹が減った」だった。
赤葦があらかじめ朝食の準備を指示していたので、光太郎がダイニングルームにやってくる頃には、大きなテーブルに焼き立てのパンやスクランブルエッグが並んでいた。
それを見た光太郎が、赤葦の方を振り返ってニコリと笑う。
「赤葦、もしかして八重と何かあった?」
昨晩この屋敷で起こった出来事は知らないはずだが、まさか八重の名前が出てくるとは思ってもいなかった赤葦は、うわずりそうになる声を抑えながら返事をした。
「何かあった・・・とは、どういう意味でしょうか?」
「だってお前、八重に辛く当たった後は必ず、食事を英国式にするじゃん」
光太郎に普段からそんな風に思われていたとは知らず、赤葦は眉間にシワを寄せた。
確かに八重には膨大な量の書物を読ませたり、習い事を詰め込んだりしている。
だがそれは木兎家令嬢として必要な教養と作法を身に付けてもらうため。
不憫に思う気持ちが無いといえば嘘になるが、かといって機嫌を取ろうとしているわけでもない。
しかし、確かに今日、朝食を英国式にするようわざわざ指示したのも事実だった。
「和食の方が良ければ、今すぐにでも用意させます」
「違う違う、俺はパンでいいよ! それに洋食の方が八重も喜ぶだろ」
当たり前のように光太郎の口から出る名に、赤葦はさらに表情を曇らせた。
思いのほか、光太郎の機嫌が良いのは新橋の芸者・かおりと会っていたからか。
若利と八重の婚約でしょぼくれているのではという心配は稀有だったようだ。
赤葦は光太郎の斜め向かいに席に座ると、目の前に並べられた朝食をボンヤリと見下ろした。
本当は食欲など皆無だが、光太郎が在宅の時は赤葦も一緒に食事の席に着く約束となっている。
主人に心配をかけないよう、バターロールをちぎって口に運んだ、その時だった。
「お、やーっとお前も来たか!」
ダイニングルームのドアが開き、廊下に立っている人物を見て光太郎が嬉しそうな声を上げた。
と、同時に赤葦の心臓がドクンと嫌な音を立てる。