【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
───やはり、赤葦を信用することはできない。
黒尾は肩をすくめると、三白眼を光らせながら薄ら笑いを浮かべた。
「分かったよ、赤葦。お前が本当に木兎のために仕組んだことならば、俺が八重ちゃんとウシワカの婚約に口出す筋合いはどこにもねぇな」
伯爵家の令嬢が侯爵家へ嫁入りするという、これ以上の良縁はないだろう。
牛島家の後ろ盾があれば、貴族院での光太郎の地位も約束されたようなもの。
何も知らない世間から見れば、の話だが。
「だがおかげで俺は、せっかくのお茶屋遊びを投げ出さなければならなかった。本当だったら今頃、可愛い半玉ちゃんに酒を注いでもらっていただろうになぁ」
大袈裟に残念そうな口調で言っているものの、未練などまったく感じられない。
顎を軽く上げながら赤葦を見下ろすその姿はまるで、相手の怒りを誘っているようにすら見えた。
するとそれまで静かに黙っていた京香が動く。
「───京治、私に外出許可を」
京香は自ら黒尾のそばに行き、その懐に身を寄せた。
黒尾鉄朗、この男を侮ってはいけない。
普段は光太郎と馬鹿騒ぎをしているような軽い男だが、時折り見せるその眼光は鋭いもので、赤葦の才を見抜く鑑識眼も持つ。
加えて、常に彼の傍らにいる幼馴染、孤爪研磨───
遊女が産み落としたあの不遇な青年こそ、木兎家と赤葦家が最も畏れるべき存在だ。
「当家の私事によりご心配をおかけしてしまったお詫びとして、今宵は黒尾さんのお傍におりたいと思います」
すると赤葦ははっきりと苦悩の色を浮かべながら京香を見つめた。
芸者遊びを中断させられた、という黒尾の言葉は恨み言などではなく、赤葦を揺さぶりにかけようとしているだけ。
黒尾は木兎家の家令が本性を出すのを待っているのだ。
八重と若利の婚約に口を出さないと言ったのは建前。
この男は日美子が殺された仇をいつでも取ろうとしている。
なんと・・・喰えない人間なのだろうか。