【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「だがお前の親父殿はどうだ。光臣殿がご隠居なされた途端、全てをお前に押し付け、後を追いかけて親父殿も静養先に行かれたんだろ」
「光臣様に死ぬまでお仕えする、それが父の生き方です。息子の私もその覚悟です」
「ふぅん、お前も・・・ねぇ。聞くところによれば、お前には経済の才があるそうじゃねぇか。交渉術にも長けていると聞く。そんなお前がいつまで木兎の影でいられるかな」
つまり、黒尾が言いたいのは、木兎家を失墜させ、代わりに赤葦家が爵位を奪おうとしている、ということか。
赤葦は怒りを覚えるよりも先に、失笑してしまいそうになった。
「買い被りですよ、黒尾さん。何より私は、この世に生まれたその瞬間から木兎家の影。赤葦京治が光になることは絶対にありません」
もし自分に何かの才があったとしても、それが木兎家にとって何の得にもならないことであれば、無駄に等しきもの。
才も、命も、天賦のものは全て木兎家に捧げる、それが宿命なのだから。
「貴方は旦那様の御友人に過ぎないのですから、当家のことに口を挟まないでいただきたい。もし私が旦那様を裏切り、木兎家を失墜させるようなことあれば───」
赤葦はふと言葉に詰まり、いったん唾を飲み込んだ。
その先は軽はずみに口にして良い言葉ではないのだろう、一呼吸を置いてから口を開く。
「私はこの腹を切るつもりです」
赤葦京治もまた、武士の血を引く者。
明治の世となろうとも、時代遅れと呼ばれようとも、主君に忠節を尽くせずして己の存在価値などない。
「切腹・・・ねぇ。今どき、流行らねぇな」
だが、相手は生粋の商人の息子・黒尾だ。
時代遅れの武士道など通じず、その目に映すのは物事の本質と価値、そして真偽。
「研磨も言っていたぜ。算段をつけることに関して、赤葦の右に出る者はいない、とな」
赤葦に才覚があるからこそ、この若さで木兎家という大きな旧家を守っていられる。
だが同時に、才覚があるからこそ、木兎家に牙を剥きかねない。