【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「ただ、八重様は木兎家の光・・・どうか指一本触れないでいただきたい」
赤葦は黒尾に向かって静かに頭を下げた。
京香のことは煮るなり焼くなり好きにしていい。
だけど、八重様は・・・
何の罪もないあの方は今、夜叉の手によって穢され、気を失うように眠っている。
指一本触れるな・・・などとよく言えたものだ、お前の手こそが彼女を穢したというのに───
「赤葦家の名誉にかけ、木兎家と光太郎様はこの赤葦京治が必ずお守りいたします。ですからどうか、八重様の御婚約に関しては口出し無用でお願いいたします」
自分を戒めるように、痣の残る手首に爪を立てる赤葦。
その力は強く、皮膚を突き破り肉を裂いてしまわんばかりだ。
そんな彼を、黒尾は闇夜に光る黒猫のような目で見つめた。
「知っているか・・・梟は時に、自分より大きな猛禽類をも餌食とするらしい」
主君を喰う気ではないだろうな、赤葦。
「お前の親父殿・・・いや、それ以前からずっと、赤葦家は木兎家に利用されてきた家系だ」
黒尾と赤葦の視線がぶつかり、青白く冷たい火花が散る。
爵位は世襲だ、光太郎が光臣の実子でないことが知られれば、称号どころか世襲財産も没収となりかねない。
その一方で、近代化が進むこの日本においては、“才覚”さえあれば大名や公家の血筋でなくとも爵位を得ることができる。
「・・・何を仰りたいのですか?」
「江戸時代に家老だったからといって、この明治の世でも律儀にかつての主君に仕えている家はそう多くない。下級武士や商人でも、貿易や鉄道で財を成している者がいる時代だ」
赤葦家くらいのものだ、今だに君主の呪縛に囚われているのは。