【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「ああ、そうだった。赤葦に京香・・・お前らとの取引にはまだ続きがあったよな」
黒尾はニヤリと笑うと、赤葦の胸倉を掴んでいた手を離す。
それ以上の危害を加える気が無いと判断したのか、同時に黒尾の腕を掴んでいた京香の手も離れた。
「木兎が八重ちゃんと結婚して“正当な”当主となるまで、俺はお前が日美子様にしたことを口外しない。その代わり・・・」
───赤葦京香を好きにしていい。
赤葦にとって一番酷であろうその交換条件を提示したのは、他でもない京香自身だった。
「黒尾さんが京治に抱く憎しみも、怒りも、全て私がこの身に受けましょう。私を貴方の慰み者にしてください」
あの時と同じ言葉で黒尾を真っ直ぐと見つめるその目には、恐怖や惨めさは微塵も無かった。
ただ一つ、あるのは揺るぎない覚悟。
弟が無事に務めを果たし、また弟自身も幸せになるその日まで、何人たりとも傷つけさせない。
木兎光太郎様と、木兎八重様と、そして赤葦京治は私がお守りする。
それが京香の静かなる覚悟。
「無論、私の命と身体を差し出しても、日美子様の代わりには到底ならない。しかし、京治の・・・弟の心を乱すには十分でしょう。どうかそれでご容赦ください」
「・・・・・・・・・・・・」
頭を下げる京香に、いつしか黒尾の顔から表情が笑みが消えていた。
何か言葉を言いかけたが、口を真一文字に閉じると京香の右腕を強く引っ張る。
そして羽交い締めにするように片腕で抱きながら、侮蔑を込めた瞳を赤葦に向けた。