【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第3章 秋霖 ②
申し訳なさそうに頭を下げた八重だったが、牛島夫人に呆れた様子は見られなかった。
むしろ気遣うように笑みを見せ、八重が生けた花に視線を落とす。
亡き貴光への手向けとして選んだ、菊。
平たい花器には緑の葉と白い仏花がそれぞれ三角形を描くように配置されている。
その佇まいはまるで、長身白皙だった貴光のごとく。
「気にすることはないわ。まだ日本に戻られて間もないのでしょう、不安になって当然よ」
「・・・・・・・・・・・・」
でも木兎家の人間として、光太郎を支えていかなければならない。
隠居した光臣もそれを願っているはずだ。
「安心なさい、貴方は確かに貴光様の面影がある。紛れもなく木兎家の人間よ」
「ありがとうございます、定子様」
一日でも早く完璧な“木兎家の令嬢”にならなければ。
それまでは赤葦も決して自分を認めてはくれないだろう。
「恐れ入りますが、これからも花を教えてくださりますでしょうか。恥ずかしながら私には知らないことが多く・・・」
すると牛島夫人はニコリと笑い、八重の黒髪を懐かしそうに見つめた。
「貴光様も謙虚で、勉強熱心だった」
牡丹の木のそばで、英字の書物を読んでいた青年。
声をかけることすら躊躇うほどの熱心さに、ただ見つめることしかできなかった遠い日を思い出す。
貴光が平民の娘と結婚する少し前に、自分は父の言いつけで婿を取ることになった。
婚礼の席で優しく微笑みながら会釈してくれた貴光の姿は、淡い思い出として心の奥にしまっていたというのに。
貴光の訃報が届いた時は呆然として、食事も喉を通らなかった。
“木兎貴光様の御息女が帰国なされました”
そんな定子に、木兎家が八重を引き取るつもりだという知らせを持ってきたのは赤葦だった。