【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
日美子は木兎邸の東館三階の窓から転落死したとされている。
だが、煉瓦造りが美しい屋敷を外から見てみれば分かるだろう。
二階にはバルコニーがあるものの、三階は腰高窓しかなく人間が足場にできそうな場所もない。
その三階から“転落事故”を起こすには、わざわざ腰の高さに設置された窓枠に上り、頭と肩がようやく通る大きさの窓の向こうへ越えなければならない。
いったい何のために日美子はそのような行動を取ったというのか。
「日美子様が亡くなったのは事故じゃない」
だが、黒尾は知っている。
木兎家の白薔薇が散った日、木兎家の東館三階で何が起こったかを。
“───京治・・・私を許して・・・”
「今は木兎のためにお前に協力してやっているが、日美子様を殺した罪はいつか償わせる」
あの日、日美子は赤葦に向かって涙を流しながら赦しを請っていた。
「法がお前を裁かないならそれでもいい。この俺がお前に必ず報いを与える」
仮面を被った木兎家の家令よ。
涼しい顔をしていられるのも今のうちだ。
「日美子様が俺に遺した願い・・・木兎が当主として確固たる地位を築いたら、俺は必ずお前を地獄に落としてやる」
重い静けさの中で、玄関に置かれた大時計が鐘を鳴らした。
五臓まで凍てつかせるような冷気は、三人の身体を芯から震えさせる。
それでも赤葦は微動だにせず、黒尾の言葉にも否定することなく、ただ静かな瞳を向けていた。
彼は今、何を考えているのだろう。
気道を塞がれて苦しいはずなのに、そのまま頸椎を砕いてくれとばかりに瞳の奥を輝かせているようにさえ見えるのは気のせいか。
その態度が黒尾の気に障ったようだ。
「何か言ったらどうなんだ、赤葦」
「・・・グッ」
首を絞める手にさらに力が込められ、流石の赤葦も苦しそうな呻き声を上げた、その時だった。