【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
二人の間から漂う緊迫した空気は、この大きな木兎邸の西館へも広がっていたらしい。
黒尾が来たという知らせを受け、京香が正面玄関まで走ってきた。
「京治・・・!」
まさに一触即発とはこのことだろう。
黒尾と赤葦の距離はわずか1メートル、黒尾の長い腕ならば容易く赤葦の首に届く距離だ。
「姉さんは下がっていてください」
それでも赤葦は冷徹な態度を崩していなかった。
黒尾も京香を一瞥しただけで、視線を赤葦から外そうとしない。
「取引・・・もちろん覚えていますよ」
日美子を灰にしていく炎を見つめながら交わした、約束。
「木兎家のために八重様には犠牲になっていただく。そして、そのために黒尾さん───」
赤葦の黒い瞳が不気味に光った。
それはまるで獲物の首を噛みきるために息をひそめる、猛禽類のよう。
「貴方は木兎日美子に関して知っていることを決して他言しない」
しかし、赤葦が敬称を付けずに日美子の名を口にした瞬間、黒尾の怒りは頂点に達した。
“テメェ”と悪態をついたかと思うと、しなやかな長い指が一瞬にして赤葦の喉元にめり込む。
「───ッ」
頸椎を折るかのごとく勢いで赤葦の首を掴み、そのまま廊下の壁に押し付けた。
「いいか・・・俺がこの世で最も許せねぇことは何か教えてやるよ、赤葦」
できることならば、今すぐここで息の根を止めてやりたい。
それほどまでの憎しみと怒りを、木兎家の家令に抱く黒尾。
「テメェの口から日美子様の名が出ることだ」
その美しさを前にすれば花でさえも恥じらって萎み、月は雲の間にその姿を隠してしまう。
微笑めば誰もがつられて微笑み、涙すれば誰もがつられて涙する。
木兎家の白薔薇と称えられた日美子は、まさに愛されるために生まれてきたような人だった。
それなのに・・・
「日美子様を殺したお前が・・・あの方を語ることが俺は許せねぇんだよ」
赤葦が黒尾に提示した取引条件、それは───
日美子の死の真相を他言しない、というものだった。