【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「何の根回しもなく、牛島家が格下の家から嫁を貰うとは考えられない。赤葦、お前が何かを吹き込まねぇ限りはな」
「・・・・・・・・・・・・」
「いったい何を企んでいる」
「企む? 酷い言いようですね」
熱を微塵も帯びない赤葦の態度は、黒尾の怒りの火に油を注ぐだけだった。
「八重ちゃんが木兎と結婚しなければ、直系の血は途絶える。お前だってそれくらい分かっているだろ?!」
「貴方には関係の無い話です。そもそも、旦那様が光臣様の実子ではないことを知る人間は、木兎家と赤葦家、そして貴方を除いて他にいない」
貴方さえ黙っていれば済む話です、とでも言いたげな赤葦。
しかし、木兎家は戦国時代から続く名家であり、直系の血を絶やさないというのは当主の使命だ。
「木兎が“正当な”当主でなくなってもいいというのか」
「旦那様は跡継ぎとして光臣様に認められた御方であり、爵位も正式に譲り受けたもの。これを“正当”と呼ばずに何と呼ぶのです」
「そういうことを言ってるんじゃねぇよ」
───赤葦、お前だって分かっているだろ。
木兎は馬鹿だが愚かではない。
自分は正当な当主でないと常に苦しんでいるのが、お前に分からないはずがない。
「赤葦・・・“あの時”の取引を覚えているよな」
来客を予定していなかった屋敷の廊下は、必要最低限の明かりしか灯されていない。
「・・・・・・・・・・・・」
壁に掛けられたランプの火だけでは、押し黙る赤葦の表情からその感情までを読み取ることは不可能だった。