【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
誰かを呼ぶと言っても、人は選ばなければならない。
八重の状態を見れば、彼女の身に何が起こったかは一目瞭然だろう。
京香を巻き込みたくないが、かといって適当な女中に頼むわけにもいかない。
しかし、こういう時に頼れる女中がたった一人だけいた。
その人に八重の看病を頼もうと正面玄関を横切り、西館へと向かおうとしたところで、荒々しく停まる馬車の音が外から聞こてきた。
赤葦がふとその足を止めると、よく知った人物の声が重厚な玄関扉越しに飛んでくる。
「赤葦!! 赤葦はいるかァ!!」
「黒尾様、困ります!! 旦那様は不在にしております故、今夜はお引き取りください!」
「木兎がいねぇことぐらい分かっている。俺が用あるのは赤葦だ」
門番の制止を振り払い、無理やり玄関に入ってきた黒尾。
何とも間が悪い・・・と赤葦は顔をしかめたが、黒尾を出迎えるために襟元を正してから玄関へと階段を降りていく。
「黒尾さん、いったい何時だと思っているのです。非常識にも程がある」
「赤葦、てめェ・・・」
もし二人の間に手の届く距離しかなかったら、黒尾は即座に胸ぐらを掴みにかかっていただろう。
それほどの勢いで怒りを見せる黒尾は、荒々しい足音を立てながら赤葦に詰め寄った。
ここに来るまでに一度吐いたのだろうか、吐く息から嘔吐物の匂いがしたが、本人はそんなことなどお構いなしのようだ。
「八重ちゃんがウシワカと結婚するっていうのは、いったいどういうことだ?!」
「もう耳に入っていましたか。お聞き及びの通りです」
「八重ちゃんは木兎と結婚させるために呼んだんだろう。そういう“約束”だったはずだ」
「・・・・・・・・・・・・」
普段は飄々としている黒尾が、ここまで怒りを露わにするのは珍しい。
だが、初めてのことではなかった。
一度だけ激怒する姿を他人の前で見せたことがあり、その怒りの矛先は他でもない赤葦だった。