【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「俺は・・・俺だけは、八重の味方でいてやりたい」
たとえ彼女の歩む道が自分の望みとは違っても・・・
八重の覚悟を踏みにじるようなことはやはりできない。
「形だけかもしれないけどさ・・・俺にとって八重は、たった一人の家族なんだよ」
日美子が死んですぐに光臣も隠居したのは、きっと自分の息子でもないのに日美子の面影だけを残す光太郎のそばに居たくなかったからだろう。
「本当に不思議なんだけど、初めて会った瞬間から八重が大事で仕方がないんだ・・・多分、妹がいたらこんな風に思うんじゃねぇかってくらい」
かおりは光太郎の言葉に胸がただただ痛かった。
半年前、光太郎はまだ顔も知らない八重と家族になることを、誰よりも楽しみにしていた。
紳士として名高い貴光の忘れ形見で、自分を本当の意味で“木兎家当主”にしてくれる存在だ、と。
だがその一方で、彼女の意志に関係なく自分と結婚させるつもりで呼んだことに対して、罪悪感を覚えていたことも知っている。
「私がいるから大丈夫よ」
貴方はきっと、断腸の思いで八重様の決断を後押ししたんでしょ。
客と芸者という間柄でしかないけれど、私は貴方の良き理解者でいてあげたい。
きっと私は世界で一番貴方を知っている人間だと思うから。
赤葦も知らない光太郎様。
京香さんも知らない光太郎様。
黒尾さんも知らない光太郎様。
そして、八重様も知らない光太郎様。
芸者だからこそ、私はその全てを知っているし、理解している。
「しょぼくれなさんな、木兎伯爵!」
かおりはすっかりと丸くなっている光太郎の背中をバンバンと叩いた。
「私は何があっても、光太郎様の味方よ。私を救ってくれた光臣様と光太郎様にはそれだけの恩がある」
私には何の力もないかもしれないけれど、多くの高官や華族を芸と酒で酔いしれさせる花街だからこそ知り得る情報もある。
「だからお願い、私の前ではそんなに悲しそうな顔をしないで」
切なそうな顔で、馴染みの客の肩にしな垂れかかるかおり。
その温もりを感じながら、光太郎は座敷の折り上げ格天井を見上げた。