【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
開けっぱなしにされた障子から吹き込む寒風が、行燈の灯を揺らす。
かおりは黒尾が倒していった膳を直しながらチラリと光太郎の方を見た。
友を怒らせてしまったと思っているのか、大きな身体を丸め今にも泣きそうな顔をしている。
「光太郎様、元気を出しなさいよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「せっかく御名前に“光”の文字を頂いているのだから、そんなに曇った顔をしないの」
それでもウジウジと膝を抱えている光太郎に、かおりは小さく溜息を吐いた。
「なぁ、かおり・・・俺、間違ってる?」
光太郎は牛島夫人にキッパリと縁談を断った。
だが、八重自身が牛島若利の妻になることを選んだのだ。
“光太郎さんと私には、時間が必要だと思いました”
木兎家の血を引いていない自分と結婚して欲しいと言った翌朝、八重はそう言って微笑んでいた。
“結婚以外にも道はあるかもしれないし、結婚しか道はないかもしれない。それを見極める時間が欲しいのです”
決して迷っているからそう言ったわけでないことは光太郎にも分かった。
むしろ覚悟を決めたからこその言葉で、その堂々とした姿は彼女に武家の血が流れていることが紛れもない事実として誰の目にも映っただろう。
“約束します。光太郎さんが名を守ってくだされば、私も必ず血を守ります”
先ほどかおりが言ったように、八重が牛島家に入れば木兎家の爵位返上は無くなるだろう。
それは牛島家が平民と親戚関係になることを許さないからだ。
“木兎家の血”に関しては、家系を辿れば直系でなくとも傍系の血が残っているはず。
八重は八重なりに木兎家を最善の形で守ろうとしてくれているのだ。
光太郎はかおりを手招きすると、縋るように右手を握った。