【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「ふざけるな、いつからそんな話になった?」
「く、黒尾・・・?」
常に薄い笑みを浮かべ、自分と一緒に居る時はお調子者ですらある黒尾が、低く唸るような声で怒りを露わにしていることに光太郎は驚き、慌てて身体を起こした。
黒尾は自分よりはるかに冷静な性格なのに、いったいどうしたというのか。
「八重ちゃんはお前と結婚するんだろ、木兎! そのために母親の実家から引き取ったはずだ、なのに何故ウシワカとの結婚を許した!」
「お、怒るなよ、黒尾ぉ」
黒尾は光太郎が光臣の実子でないことを知っている。
木兎家直系の血を守るため、八重は光太郎と結ばれなければならないのに。
「───赤葦・・・だな」
そして黒尾はもう一つ。
木兎家の狂った運命の歯車が生んだ“闇”を知っている。
「赤葦が裏で何かしなけりゃ、牛島家が動くはずねぇ」
世間では、若利の許嫁には宮家の令嬢が選ばれるだろうとされていた。
それなのに、光臣が隠居し爵位剥奪の危機にすらある木兎家の、しかも両親を失った八重を迎え入れるのはあまりに不自然だ。
「木兎はそれでいいのかよ?」
「良くねぇよ! けど、八重が自分で決めたんだよ・・・俺と牛島夫人の目の前ではっきりとそう言った」
「俺は・・・許さねぇぞ」
ガシャンと黒尾の手の中で猪口が割れる。
“かの憐れな姫君が、御家のために犠牲となる姿を・・・俺は見届けなければならないからね”
この愛が許されるなら、その身体に再び触れることができるなら、自分は今すぐ地獄に堕ちてもいい。
そう思えるほどに愛する人の願いを叶えるため、自分は今までずっと光太郎の友人という立場から彼を守ってきた。
「黒尾、どうしたんだよ?」
光太郎も八重も気づいていないだけだ。
木兎家の家令が、本当は何をしようとしているか───
「お前の好きにはさせねぇぞ、赤葦・・・!」
黒尾は膳を蹴とばすように立ち上がると、荒々しい足音を立てながら座敷を飛び出していった。