【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
「ねぇねぇ、ウシワカって、あの“若様”で有名な牛島家の跡取り息子? 相当な男前らしいけれど本当なの?」
牛島家ほどの家柄となれば、浮いた噂は無くとも花柳界でもその名は知られている。
花簪を揺らしながら頬を紅く染めるかおりを見て、光太郎は明らかに不満げな顔をした。
「あー、かおり! 俺というものがありながら、なんでお前までウシワカなんだよ!」
「あら、旦那気取り?」
からかうように袖で口元を隠しながらクスクスと笑っているものの、光太郎の発言にかおりも満更ではなさそうだ。
そんないつもと変わらぬ調子の二人に黒尾も笑みを漏らしたが、その会話の中でどうしても気になることが一つあった。
「おい、木兎・・・今、“なんでお前までウシワカなんだ”って言ったが、誰か他にウシワカに惚れている女でもいるのか?」
若利に想いを寄せる令嬢などいくらでもいる。
いつもなら聞き流していたはずなのに、今回ばかりはいやに気になった。
その嫌な予感は的中したらしく、光太郎もみるみるうちにションボリしていき、最後は膝を枕にしているかおりの帯に顔を埋めてしまう。
「───惚れてるどころか・・・嫁いじゃうんだよ・・・」
それは光太郎には似つかわしくないほど消え入りそうな声だった。
せっかく酒で忘れようとしていた不安を、牛島若利の名前が出たせいで思い出してしまう。
「八重とウシワカが許嫁になった・・・」
牛島家の実質的権力者である定子と、木兎家当主の光太郎が承諾したのだ、若利と八重の婚約は成立したようなもの。
あとは正式な発表をいつにするか・・・というだけだ。
「あの“若様”と八重様がご婚約?! 木兎家にとっては、強力な後ろ盾が付くことになったわね」
かおりの歯に衣着せぬ物言いがグサリと刺さったらしい。
“どうせ俺は頼りない当主だよ”と不貞腐れてみるものの、自分が頼りないから八重をウシワカに取られてしまったのだ。
だから、酒に逃げずにはいられなかった。
「・・・ちょっと待て、木兎」
そして、若利と八重の婚約を祝福できない男がここにも一人。