【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「お、おはようございます、光太郎さん」
朝食を食べる光太郎はいつも通りで、まるで八重が牛島家に嫁ぐと言ったことなど無かったかのようだ。
まさか一晩中、芸者遊びをして忘れてしまったわけじゃないだろう。
「八重も座れよ。俺、食べ終わっちゃうよ」
いつものように八重の好きな紅茶を持ってくるよう、女中達に指示をしている。
そしていつも通り───ということは。
「おはようございます、八重様」
光太郎とは正反対の無機質な声。
ティーカップを静かに置き、こちらに向ける冷めた瞳。
「御気分はいかがでしょうか」
やはり赤葦がその食卓についていないわけがなかった。
「赤・・・葦・・・・・・」
遅く起きたわけではないはずなのに、当主に合わせて自身も遅い朝食を取る。
しっかりとアイロンがかけられた燕尾服をまとう家令は、何事も無かったかのようにいつもと変わらぬ冷然とした態度でそこにいた。
「え、気分? 八重、あれから体調を崩したのか?」
今朝方まで不在にしていた光太郎は何も聞いていないらしく、大きな目を丸くして八重の顔をマジマジと見た。
「確かにお前、顔色が悪いな」
「・・・・・・・・・・・・」
鏡など見なくても自分の顔が真っ青であることは分かるくらいだ、さすがの光太郎も一瞬のうちに心配そうな表情に変わる。
「お前・・・変なモンを食ったわけじゃねぇよな? 昨日のことを気にしているのか?」
“昨日のこと”というのは、牛島家での一件を指していることは間違いない。
光太郎の様子から見て、赤葦と八重の間で起こったことは知らないようだ。
「本当はウシワカに嫁ぐのが嫌なら、今から俺が断りに行ってもいいんだぞ」
「いえ・・・大丈夫です、牛島家には関係のないことです」
「じゃあ食べ合わせが悪かったのか? 昨日はお前も牛島夫人から酒を勧められていたしな」
ああ・・・なんだか胃の奥がムカムカとしてきた。
赤葦は何も言わず、ただ光太郎と同じように八重に目を向けているだけだ。