【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「それで・・・雪絵は何か言っていた?」
「いえ、特には・・・私も八重様が心配でしたので伺おうとしたのですが、酷く疲れている様子だから遠慮して欲しいと頼まれたぐらいです」
雪絵が自ら八重の看病をしたとは考えにくい。
恐らく、京香に知られたくない赤葦が頼んだのだろう。
彼女も赤葦と同様、何を考えているのか分からない節がある。
「・・・光太郎さんは?」
「旦那様もご帰宅は明け方だったので、これから朝食とのことです。八重様はどうなされますか?」
「・・・・・・・・・・・・」
食欲などあるわけがない。
しかし、光太郎と朝食を取ることは日課であり、牛島家に嫁ぐと決めた直後に欠席すれば余計な心配をかけてしまう。
「もし無理そうならば粥でもお持ちします」
「いいえ、大丈夫」
八重は身体を起こすと、いつのまにか着替えさせられていた寝間着の胸元を掴んだ。
「───行きます」
正直言うと、光太郎にも会うのが怖い。
昨日は牛島邸からそのまま新橋へ行ってしまったので、光太郎と顔を合わせるのはそれ以来だ。
自分の下した決断を受け入れてくれたけれど、実際はどう思っているのだろうか。
「八重様・・・」
八重が牛島若利との縁談を承諾したことは、京香も闇路から聞いていた。
その直後に体調を崩したという八重と、憂さを晴らすかのように花街へ行ってしまった光太郎。
何かがおかしい・・・と、八重の着替えを手伝いながら京香は眉をひそめた。
そもそも八重が昨日着ていた着物が見当たらないのは何故だ。
先ほど洗濯場を覗いてきたが、帯も襦袢も無かった。
まるで誰かが意図的に隠してしまったようだ。
「・・・どうしたの、京香さん」
「す、すみません、少し考え事を・・・」
光太郎はすでに朝食を食べ始めているはず。
何せ大食いの早食いだから、急がないとすれ違いになってしまうかもしれない。
八重は身体中に走る鈍い痛みを堪えながら支度を終えると、食堂の方へと急いだ。