【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
どのくらい時間が経っただろうか。
ふと気が付くと八重は自室のベッドに横たわっていた。
「八重様!」
声の主は京香だった。
丁度、花瓶の水を替えようとしていたところだったのか、慌てて切り花を箪笥に置き、ベッドの方に駆け寄ってくる。
「申し訳ございません、起こしてしまいましたか」
「自然と目が覚めただけ・・・今、何時?」
「もうすぐ十時でございます」
ああ、頭が痛い・・・
昨晩は寝支度すらした覚えがないのに、どれだけ眠っていたのだろう・・・と記憶を遡ろうとした瞬間、忌々しい光景が堰を切ったように流れ出してきた。
「・・・ッ!!」
ガクガクと身体が震え、恐怖と激痛が蘇る。
特に股の奥が裂けているのか、月の障りでもないのに血が出ているような不快感だ。
「八重様、大丈夫ですか?」
「私は・・・私は・・・どうしてここにいるの・・・?」
赤葦に手籠めにされてからここに至るまでの記憶がない。
誰が自分をここまで運び、寝間着に着替えさせたのか。
「八重様は昨日、牛島邸からお戻りになられてすぐに御気分が優れないと仰って御部屋に戻られたそうです」
「・・・え・・・?」
昨日は牛島邸から戻ってすぐに赤葦の元へ行った。
その間に誰にも会っていなかったが、少なくとも半刻は赤葦の部屋にいたはずだ。
誰がそんな嘘を・・・
「申し訳ございません・・・八重様が御帰宅した時刻、私は丁度外出しておりました。そのため雪絵が八重様の御看病を」
「雪絵が・・・」
上女中の雪絵は光太郎と同い年であり、幼い頃から知る仲。
京香の補佐役として女使用人達をまとめる頼もしい存在だが・・・
何故だろう、雪絵の名前を聞いて背筋がザワリとした。