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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第6章 冬霞




「私は貴方が本家にいらっしゃるずっと前から、木兎家のためだけに生きてきました」

赤葦家の長男として、疑問を持つ前から木兎家の家令となるために厳しく躾けられた。
そのおかげか幼い頃の記憶に、楽しかった思い出はほとんどないのですよ。
あったとしてもその記憶には全て、光太郎様か京香姉さんがいた。

光太郎様と姉さんのためならどんな苦しみも、犠牲も、耐えられる。

───八重様、貴方ですら犠牲にできる・・・


「私と貴方、二人で木兎家を守っていく? 何を勘違いなさっているのです」


酒の酔いなどとうに消えていた。
たった二歩で八重の目と鼻の先まで詰め寄ると、その華奢な顎を右手一本で掴む。


「貴方は木兎家の御令嬢。私に“守られる方”であり、尚且つ、“犠牲にされる方”だ」
「赤葦・・・!」

強引に自分の方へ向けさせた八重の顔は美しかった。
貴光の血を濃く受け継いでいるのだろう、黒瞳が勝る大きな目は怯えたように赤葦を見上げている。

「守られることしか知らない貴方が、世間を何も知らない貴方が、誰かを守りたい? 冗談にもならない冗談は言わないでいただきたい」

滑らかな肌をつたうように顎から口元へと親指を滑らせ、震えている唇を押し広げる。
今、赤葦は初めて八重に“触れて”いた。


「誰も傷つけることなく、誰かを守ることなどできないのですよ、八重様」


ああ、腹立たしい。腹立たしい。


「自分を傷つけることもある。大切な人を犠牲にすることもある。貴方にその御覚悟がありますか?」


光太郎様と京香姉さんを守るため、俺は貴方を犠牲にした。
牛島家がもし八重様を選ばなかったとしても、他の権力者との縁談をまとめるつもりだった。
なのにその貴方が、“木兎家と光太郎様を守るため”と言って自ら牛島家との縁談を承諾し、微笑みながらそのことを私に言う。


ああ、本当に腹立たしい・・・!








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