【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
赤葦に顔を掴まれているだけなのに、八重は指一本すら動かすことが出来なかった。
怖い、というよりも、赤葦が何故このような行動を取っているのか分からない。
突然、ガシャンとランプが倒れる音がした。
灯りを消すためか、赤葦が左手で払ったようだ。
外灯と月のボンヤリとした明かりだけの部屋は八重の不安を煽り、赤葦と自分の息遣いがやけに大きく聞こえる。
「赤葦・・・離しなさい・・・人を呼びますよ」
「どうぞ。その前に貴方の口を塞ぎます」
赤葦の瞳は恐ろしく冷たかった。
顔を掴んだまま八重を部屋の中央に来させると、ベッドの上に仰向けになるよう押し倒す。
八重の顔に恐怖の色が浮かんだのを見て、赤葦は初めて口元を綻ばせた。
「ど・・・どういうつもりなの、赤葦」
「貴方の御覚悟を試させていただくだけです」
「・・・無礼な! そこをどきなさい!」
しかし赤葦は命令に耳を貸さず、逆に八重の両肩の付け根を押さえつけると、下腹部の上を跨るように覆いかぶさった。
「赤葦!」
力では敵わない上に、着物を着ているせいで足もばたつかせられない。
そして、怒りよりも恐怖が勝っているせいか、声すら上手く出てこなかった。
「大切な木兎家の血を犠牲にするだけが貴方の覚悟ではないでしょう」
「いや、離して! 誰か、誰か!!」
「何を恐れているのですか。人の妻となるのですから、これくらいの羞恥など何でもないはずです」
木兎家に操を立てたままで、どうやって牛島家に嫁入りするというのか。
けれども、貴方の純潔は絶対に外には出しません。
───この木兎家の中で失っていただく。
闇の中でしか生きられない梟は、獲物を掴んだまま静かにその大きな翼を広げた。