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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第6章 冬霞






“八重さんを牛島家に迎えたいと思っています”


牛島家の奥座敷。

「光栄極まりないお話ではありますが、承諾致しかねます」

縁談の申し入れを断った光太郎に、牛島夫人は一瞬だけ驚いたような顔を見せた。
二つ返事で承諾するものと思っていたが、十八歳の木兎家当主は一筋縄ではいかなそうだ。
牛島夫人は左手の扇子で一扇ぎすると、高圧的な笑みを浮かべながら光太郎を見据えた。

「お宅の家令はこの縁談にとても前向きだったのに?」
「赤葦が・・・?」
「八重さんに生け花を教えて欲しいと頼みに来た時も、貴光様の忘れ形見を若利の嫁候補として考えて欲しいと言ってきたのよ」


“八重様は貴光様の御息女。血筋、家柄、教養は申し分ございません。あとは定子様の御眼鏡にかなうかどうかだと私は考えております”


使用人のくせに侯爵夫人に対する堂々とした話し方は、むしろ定子を感服させた。
さらに木兎家の未来を憂いてこそのしたたかさも気に入った。

「光臣様が御隠居されてから、木兎家の家政はかなり不安定になったようね」
「・・・・・・・・・・・・」
「旧領地では貧困者が増えているというじゃないの。このままでは御家が潰されてしまうわよ」


だから権力者である牛島家と縁組すれば安泰だというのか。
しかし、光太郎にとってそんなことはどうでも良かった。


「ご心配ありがとうございます、牛島夫人」


深呼吸を一つ。
それから真っ直ぐと牛島夫人を見つめる。


「しかし私は八重の気持ちを大事にしたいと思っています」


その結果、木兎家が断絶という事態になったとしても───


「八重が牛島と結婚すると決めたなら、私は木兎家当主として八重を送り出します。もし、八重が牛島との結婚を拒んだなら、私はこの縁談をお断りさせていただく」


光太郎、その名のごとく日美子から受け継いだ瞳が太陽の色に輝く。


「八重は貴光殿の忘れ形見じゃない。木兎八重という一人の人間で、私の大切な家族です」


その言葉こそ、出会ってから数カ月で光太郎の心に芽生えた、八重への確かな愛情だった。









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