【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
Do not hope without despair, or despair without hope.
───絶望なく希望を持ってはいけない。
「牛島夫人から、縁談の申し入れがありました」
それはとても静かな声だった。
僅か十七歳の娘が下した決断が揺るぎないものである証。
「赤葦、貴方も承知のことだと聞いています」
───希望なく絶望をしてはいけない。
白地に真っ赤な椿の絵が施された着物の前で両手を合わせ、姿勢を正して赤葦を見つめる八重の姿からは、武家特有の気高さが感じられる。
ただ家を守るだけでなく、いざという時には命を捨てる覚悟を持っていた武家の女性たち。
「私はその申し入れをお受けすることに決めました」
たとえ英国で生まれ育とうとも、貴光から受け継いだ血は紛れもなく武家の姫のものだった。
ああ、彼女が纏うのはなんと眩しく尊い光なのだろうか。
「牛島若利様のもとへ嫁ぎます」
その瞬間、赤葦の身体に流れる血が全て氷水のように冷たくなっていくような気がした。
ガタガタと震え出しそうになるのを、右手で左腕を強く抑えることでなんとか耐える。
八重が牛島家に輿入れする。
木兎家に唯一残された、正統なる直系の血が───
「それは・・・旦那様も承諾なされたことですか?」
動揺していることに自ら驚きつつ、決してそれを表に出さず問いかける。
すると八重は寂しそうに微笑んだ。
「光太郎さんは私の決断を尊重してくださりました」
赤葦の冷たい血が、さらに四肢の末端から心臓に向かってパキパキと凍っていく。
もはや腹の底から力を込めないと声すらまともに出ないほどのこの感情を、いったいどう隠せばいいのか。
「その時の旦那様はどのようなご様子でしたか」
「・・・木兎家御当主のお顔をしていました」
八重はその時のことを振り返り、悲しげに微笑んだ。
───希望なく・・・絶望をしてはいけない・・・