【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
しかしそれは杞憂だったようで、八重はムゥと頬を膨らませながら、光太郎からの伝言を赤葦に伝える。
「“黒尾と新橋の花街に行ってくる”だそうです。光太郎さんが芸者遊びを嗜まれるとは知りませんでした」
「まあ・・・馴染みの芸者がいるくらいですから」
「馴染みって・・・その芸者さんは光太郎さんと深い仲なの?」
花街は、英国育ちの八重には理解できない世界だった。
酒の席に色を添える遊女達は、彼女にとって浅ましい存在なのかもしれない。
「ご安心ください、旦那様は権妻(※妾)を持てるほど器用な方ではございませんので。」
「べ、別に、そういうわけでは・・・」
光太郎の馴染みの芸者“かおり”のことは、赤葦も良く知っている。
いかにも光太郎好みの快活な少女だが、男女の駆け引きを楽しむというよりは気分の浮き沈みが激しい光太郎を叱咤激励するような間柄だ。
それでも少し不満そうにしている八重を見て、赤葦は胸の奥で嫌なざわつきを覚えた。
「それで・・・話というのは何でしょうか? まさか、旦那様の芸者遊びに対する愚痴ではないですよね?」
「違う、もっと真面目な話です!」
「それは失礼しました」
胸のざわつきがどんどん大きくなっていく。
何を言うつもりなのだろうか。
八重と二人きりになる空間を心地よいと思ったことはないが、もはや今は不快の域に達している。
それでも表情には一切出さず、八重の言葉を待った。
「赤葦、私は決めたわ」
ゆらゆら揺れるランプの明かりに照らされながら微笑む八重は儚げで。
しかし、暗闇に慣れ過ぎた赤葦の目にはそれすらも強い光となっていた。