【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
牛島家の新年会がお開きとなったのは、日没から間もなくのこと。
八重らを乗せた馬車が木兎邸に戻ると、玄関先で出迎えた使用人達の中に赤葦の姿は無かった。
どこにいるのかと思えば、普段は真面目な家令の自室からほんのりと酒の匂いが漏れてくる。
コトン・・・
冷めきった熱燗の猪口が床に転がる様を見つめる瞳は、底知れぬ沼のように重く澱んだ色。
赤葦はベッドの脚を背もたれにし、箪笥との間の床板に座りこみながら小さく溜息を吐いた。
「こうするしか無かった・・・」
目を閉じれば今でも鮮明に思い出す。
貴光の娘が日本に戻ってくると知った時、嫉妬に似た憎しみを覚えたと同時に・・・
木兎家の正統なる血筋に、この心が強く高揚したことを。
「だけど八重様はこの屋敷に居てはいけない・・・光太郎さんのそばに居てはいけない人だ」
あれから赤葦はしばらく姉と共に居たが、京香は夕刻前に仕事に戻ってしまった。
赤葦も使用人達をまとめなければならない立場にあるが、とてもそんな気分になれず、自室に籠って酒をあおっていた。
酔いが回ったせいか、揺らぐ視界の中に光太郎の寂しそうな顔が浮かび上がる。
“八重、ウシワカに取られちゃうかもしれないな”
光太郎の心を八重が占める割合が日々、大きくなっているような気がする。
結婚しなければならないという義務感もあるかもしれないが、“貴光の娘”というだけで無条件に惹かれてしまうのだろう。
“これがお前の望んでいることなの?”
八重様と若利様が夫婦になることを望んでいるか、ですか?
その質問には否定も肯定もできません。
「何故なら、俺が望んでいるのは───」
憂う瞳が揺らいだ、その瞬間。
ドアをトントンと叩く音が、静かな部屋に響き渡った。