【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「京治、お願いだからもうやめて。貴方のしたことはきっと光太郎様と八重様の幸せに繋がる・・・私はそう信じているから」
私が願うのは自分の幸せなどではなく、光太郎様と八重様の笑顔・・・ただそれだけ。
あの方達は木兎家に仕える者にとって“光”そのものだから、御二人が笑っていてくださるだけで私は幸せなの。
そして我儘を言うならば、京治、貴方にも笑顔でいて欲しい。
「私をちゃんと見て、京治」
赤葦の頬を京香の両手が優しく包み込む。
「私はもう十分、幸せよ。貴方が“赤葦家の長男”としてこんなに立派に成長し、光太郎様に寄り添ってくれているのだから」
京香の体温を受けて少しずつ赤みを取り戻していく頬。
その瞳もようやく光と熱を取り戻していく。
「私は光太郎様が御当主になってくださって本当に嬉しかった。八重様が本家にお戻りになってくださって本当に嬉かった。そして・・・」
───京治、貴方の姉でいられることが本当に幸せよ。
そう伝えると、赤葦は顔を歪め、今にも泣き出しそうな表情に変わった。
「俺は貴方が大切なんです・・・この世界の誰よりも・・・!」
この気持ちを貴方の心と溶け合わせることができたら、どんなに幸せだろうか。
しかし、姉弟という関係がそれを許さない。
光差すこの屋敷で二人にできることといえば、こうして抱擁し合うことだけだ。
「ほら京治、私のために辛そうな顔はしないで頂戴」
京香は姉の顔で赤葦の頭をポンポンと叩いた。
「旦那様達が戻られるのをここで一緒に待ちましょう」
牛島家からの申し出を、光太郎と八重がどう受け取ったのかはまだ分からない。
それは赤葦の願い通りになっただろうか。
それとも京香の願い通りになっただろうか。
いずれにしても、二人が帰ってくるまであと数時間。
外では雪がしんしんと降る中、赤葦家の姉弟はそれぞれの想いを胸に抱えながら静かに抱き合っていた。