【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
微かに感じる、白薔薇の残り香。
姉の身体が凌辱されてから、それほど時間が経っていない証だ。
赤葦は心の中で何度も謝りながら、悲痛な眼差しを京香に向けた。
「それは違う・・・木兎家を守るのは、それが俺の宿命だからです。それに俺は八重様の幸せなど願ってはいない」
「京治・・・」
「俺が願う幸せは、ただ一つ───」
雪が窓硝子にぶつかる、サラサラという音が聞こえるほど静まり返った部屋。
冷たい手をした弟は、自分よりも二回りは小さい姉の身体を抱き寄せた。
「姉さん・・・貴方の幸せだけです」
幼い頃は見上げるばかりだった自分が、京香の身長を越したのはいつのことだったか。
幼い頃は京治の手を引いてあげていた自分が、逆に手を引かれるようになったのはいつのことだったか。
赤葦も京香も月日の流れに驚きつつ、姉弟の間にある越えてはならぬ一線の両淵に立っていた。
「そのためなら、俺は八重様が不幸になってもいいとさえ思っている」
「・・・駄目よ、それ以上は口にしないで」
人間の温もりを感じない、弟の懐。
心音すら聞こえてこないのは、彼の心が冷え切ってきるからだ。
「貴方の幸せと光太郎さんの未来のために八重様がどうなろうと、俺は構わない」
「京治! 心にもないことを言うのはもうやめなさい」
「・・・・・・・・・・・・」
ああ、姉さん。
貴方はなんて優しくて美しい人なんだ。
八重様さえいなければ・・・いや、本を正せば、俺さえ生まれてこなければ、貴方は何の苦労もなく幸せを手に入れることができたでしょう。
俺は赦されざる罪を貴方に犯してしまった。