【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「お前が牛島家に分不相応であるわけがないだろう」
俺は木兎貴光殿を知らないが、光臣殿は良く知っている。
芯をしっかり持った人格者で行動や所作も上品な人物だった。
何年か前に一度だけ、剣道道場でお見かけしたことがあるが、優れた剣士であることは素振りを見ればすぐに分かった。
お前はその人と同じ血を持っているのだろう?
「優秀な苗にはそれに見合った土壌があるべきだ」
木兎家の家政が揺らいでいるのは事実。
もしこのまま家が没落してしまったら、お前も木兎も平民と変わらない生活を強いられることになる。
「痩せた土地で立派な実は実らない」
俺は木兎を高く評価している。
自分とは性格が正反対だが、良き友人として切磋琢磨していければと思っている。
「戦国の世から続く木兎家は、それだけで敬意を払うべき血筋。お前も、木兎光太郎も、絶対に埋もれさせてはいけない存在だ」
木兎家と牛島家が縁者となれば、俺は木兎も八重も守ることができる。
だから八重、お前は俺の妻となり牛島家に入るべきだ。
「痩せた土地・・・」
若利は純粋に光太郎と八重を気遣っていたのだが、その素直すぎる発言は逆に、八重の心に暗い影を落としてしまう。
「滅びゆく華族は・・・爵位を持たない平民は・・・不毛な存在なのでしょうか・・・」
木兎家がそうだとは認めたくない。
赤葦が身体を売ってまで守ろうとしている家でもあるのだ。
ああ、でも若利と自分が結婚すれば、赤葦も権力者と不義の関係を持つ必要はなくなるのだろうか。
「八重?」
茶室の窓から見える曇り空から、一片の雪が舞い落ちた。
障子をすり抜けて入る隙間風は冷たいのに、八重の顔に触れる若利の大きな手は微かに熱を帯びている。
「若利様」
静かに瞼を落とし、小さく深呼吸を一つ。
光太郎が牛島夫人の申し入れにどう答えたかは分からない。
しかし今、木兎家で唯一、直系の血を引く自分が選ぶべき道は・・・
「私は───」
ゆっくりと目を開け、若利の顔を真っ直ぐと見上げながら微笑んだ。