【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
自分が若利の妻として牛島家に入る・・・?
動揺のせいか、炉を挟んだ向こうで正座している若利の背後に、冷たい表情で佇む赤葦が浮かんだ。
“貴方と旦那様が夫婦となれば、確かに“木兎家のため”にはなる。しかし、“木兎家を守る”ことにはならないでしょう”
木兎家直系の子孫を残すため、光太郎と結婚することを前提に木兎家に呼ばれた。
しかし、この明治の世で木兎家を存続させていくためには“血”だけでは足りないと赤葦は考えている。
“八重様が嫁ぐ先によっては、木兎家は新しい時代で生き残る力を得られるかもしれない”
「母は以前からお前のことをいたく気に入っていた。それにこれは木兎にとっても良い話だと思う」
「でも、若利様は・・・私なんかでよろしいのでしょうか?」
「何故、そのような質問をする?」
若利は僅かに顎を引いて、ジッと八重を見つめた。
切れ長の目が広がっているのは、おそらく本当に八重の質問の意味が分からなかったのだろう。
八重は畳に置いた茶碗に視線を落としながら続けた。
「私は英国で育ち、教育も向こうで受けました。牛島家のような日本有数の名家に嫁ぐのは、分不相応ではないかと思うのです」
すると若利はゆっくりと立ち上がり、畳のヘリを踏まないようにしながら八重の目の前で片膝をついて屈んだ。
「八重、顔を上げろ」
お前はどうしていつも下ばかりを向いているのだ。
そんな風だから、俺はお前のことを考える時はいつも決まって、目線よりも高いところにある木の花を見せてやりたいと思うのかもしれない。
そうすればきっとお前の顔をよく見ることができるだろうから。
「お前は自分を誰だと思っているんだ、木兎八重」
若利は八重が再び下を向かないよう、彼女の顎に手を添えて支えながら口を開いた。