【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
牛島夫人と光太郎の間で緊迫した空気が流れる、その一方。
二人がいる座敷から庭園を挟み、石畳を進んだ先の離れにある茶室では、若利が八重に茶を点てていた。
茶の境地とは、閑寂と清澄。
茶筅で抹茶を湯に溶かす若利の手つきは、静かで澱みがない。
全ての所作が流れるようで、恐らく彼は幼い頃から茶の湯の世界に触れていたのだろう。
炉釜からたつ湯気越しに若利をぼんやりと見つめていると、ことりと茶筅を置く音がした
そして細かい泡がたつ抹茶の入った茶碗が八重の目の前に置かれる。
“茶はな、グーッて一気に飲み干すのが一番旨いんだよ!”
ふと、ここにはいない光太郎の声が聞こえてきた。
ああ・・・確か、八重の茶道の練習ということで、赤葦が点てた茶を豪快に飲んだ時の光太郎の一言だ。
「お点前頂戴いたします」
八の字に両手をついて深く頭を下げると、若利は静かに頷いた。
“旦那様、茶碗を回すのを忘れています”
“いいんだよ、俺は一番綺麗に見える面を眺めながら飲みたいの! せっかくの木兎家に代々伝わる茶碗なんだからさ!”
“まったくもう・・・仕方のない人ですね。八重様、絶対に真似をしてはなりませんよ”
茶碗を持つと思い出す、光太郎と赤葦と共にした茶の席。
とても、とても、楽しかった。
光太郎は破天荒なところがあるが、その言動には必ず信念がある。
だから赤葦も眉毛を吊り上げながらも主人に合わせてしまうのだ。
茶を飲むのなら、一番美味しく感じる飲み方で。
茶碗に敬意を払うなら、一番美しい面を見つめながら。
光太郎の“作法”は、表千家にも、裏千家にも、武者小路千家にも反する。
若利が見たら眉を顰めるかもしれないが、それでも八重は光太郎の作法の方が人間味があって好きだった。
「・・・・・・・・・・・・」
若利の差し出した茶碗は、白鷺の絵が描かれた乳白色の筒茶碗。
正面を避けるように回して口を付けると、抹茶の深い苦みと甘みが舌の上に広がっていく。
美味しいけれど、何故だろう。
どこか寂しい気持ちになるのは───