【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
寒風がガタガタと障子を揺らした。
奇しくも貴光の娘と我が子は歳が一つしか変わらない。
貴光の妻となることは叶わなかったけれど、彼の忘れ形見が牛島家のものになるならば願ってもないことだ。
「単刀直入に言いましょう、木兎伯爵」
光太郎の瞳が金色に光る。
圧倒的な強者からの威嚇を受けてたつため、梟は静かに翼を広げようとしていた。
自分の未熟さなど百も承知。
木兎家に今、何が必要かということも分かっている。
「八重さんを牛島家に迎えたいと思っています」
牛島夫人の声に威圧感が増していく。
「御血筋、容姿、教養、そして素養・・・全てを見ても、八重さんは若利の妻として相応しい御令嬢です」
冷たい空気の中に走る、ピリリとした緊張。
高い所から見下ろすような夫人の視線と、闇の中で息を潜める光太郎の視線が交差した。
「木兎伯爵・・・貴方はどうお思いかしら?」
家格が高い牛島家に嫁入りする、それはきっと八重にとってだけでなく木兎家にとっても願ってもないことだ。
でもそれは同時に、木兎家が直系の血を失うことを意味している。
“約束します。光太郎さんが名を守ってくだされば、私も必ず血を守ります”
これが・・・赤葦の願いなのか?
木兎家の血を守ると約束してくれた八重を牛島家に渡すことが?
違うだろう。
違うだろう。
でなければ、牛島家で菊合が開催されたあの日、八重の帰宅を玄関で待ち続けていた赤葦のあの姿は何だったんだ。
「牛島夫人」
光太郎はゆっくりと息を吐くと、姿勢を正し、明るい笑顔を牛島夫人に向けた。
「光栄極まりないお話ではありますが、承諾致しかねます」
“私とお前は血が繋がっていない”
“それでも私の息子は光太郎、お前ただ一人だ”
血の繋がりのない自分に木兎家を託してくれた父の想い。
そして───
“赤葦家に生まれ落ちたその日から、私は貴方のために生きているのです”
京香と赤葦の覚悟を、光太郎は無下にするわけにはいかなかった。