【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
木枯らしが吹き付ける、牛島家の渡り廊下。
長く冷たい床が続くその先に、重要な客人しか入ることを許されぬ部屋があった。
「どうぞ、木兎伯爵」
障子を開けると、微かに匂う御香。
徹底して和風様式にこだわる牛島家の奥座敷は、十畳ほどの広間とその隣に八畳の控えの間の二間続きで、風情のある皮付き丸太をそのまま床柱として使用した床の間があった。
「ここなら新年会の喧噪も届かないから、ゆっくりと話せるわ」
牛島夫人は上等な座布団に光太郎を座らせてから、下女に熱燗を持ってこさせた。
「まずは一献」
そう言って、夫人自ら光太郎の猪口に熱い酒を注ぐ。
冷えた身体にはありがたい美酒が光太郎の身体にめぐると、さっそく本題を切り出した。
「木兎伯爵は、八重さんを今後どうするおつもりなの?」
ピクリと猪口を持つ長い指が強張る。
たかが一杯の酒で酔う光太郎ではないが、下手に口が滑るのを恐れたのかすぐには答えなかった。
「どうする、とは・・・?」
「八重さんももう十七でしょう? 木兎家で預かるからには無論、将来のことも考えてあげているのよね?」
「もちろん、八重が一番幸せになれる道を選んでやろうと思ってはいますが・・・」
赤葦ほど言葉を巧みに操ることができないと自覚しているため、光太郎は必死に言葉を選んでいた。
それでも牛島夫人の方が遥かに上手なのは明らか。
空になった光太郎の猪口に酒を注ぎながら、老猫のようにしたたかな目で微笑んだ。
「八重さんが一番幸せになる道、と言ったわね?」
「・・・はい、それはきっと八重の父、貴光殿の願いでもあると思いますので」
「貴光様・・・」
それは牛島夫人が少女の頃に胸を焦がした男の名。
そしてその一人娘は木兎家特有の黒髪を持ち、父親そっくりの目鼻立ちをしている。
ああ・・・欲しい───!!